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産業企業海外情報 KSK SCANNER 特別編 (2006年10月発行)

アメリカ人はピックアップ・トラックを軽自動車に乗り換えるか
 −海外新聞紙・雑誌記事から見るアメリカ人の嗜好の変化−

★☆以下の情報は、当研究所の「ウェブ版 KSK SCANNER」を利用して構成しております☆★

小型車の人気、大型車の不人気 

アメリカで小型車の人気がこれまでにない高まりを見せている。6月6日付けのFinancial Times によれば、「5月の自動車・トラック全体の市場が前年比で7%縮小する中,小型車の売上げは逆に12.4%増加した」という。こうした流れは6月に入ってから勢いを増し、結局「上半期のピックアップ・トラックの販売は11%近く減少し,従来型のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の売上げも軒並み2桁減少を記録し」たという(Wall Street Journal 7月25日付け紙面より)。

人気の原因は石油だけなのか?

この原因について、「原油価格の高騰」が真っ先に槍玉に上げられることが多い。一頃よりだいぶ落ちついては来ているが、原油の価格は依然高めの水準が続いている。
 とはいえ、アメリカ人が高いガソリンに音を上げ、消費を減らしているわけではない。Business Week 7月31日号によれば、2000年3月には1ガロン(1ガロンは3.8リットル弱)で1.5ドル前後(当時のレートで160円強)だったが,価格が75%上昇している今年上半期でも消費は2000年上半期に比べて10%増加している。
 この原因について、同誌では、「高値に慣れてしまい,その分,別の消費を減らしているため」との理由を載せている。また、「可処分所得の増加」もガソリン消費が減らない理由の一つだという。
 これは明らかに矛盾である。アメリカ人は、ガソリンの高騰に嫌気が差して、ガソリンを喰うSUVやピックアップ・トラックの売上げが落ちているのではなかったのだろうか。
 実際に、従来型に比べて燃費が良いはずのハイブリッド車の売れ行きは鈍っている。Wall Street Journal 4月27日号によれば、フォード、トヨタはハイブリッドSUVの拡販のために、相次いでローンの金利を引き下げている。軽自動車の流行とSUV、ピックアップ・トラックの落ち込みは、ガソリン価格以外の理由がありそうに見える。

石油以外の原因はあるのか?

ところが、メディアに挙げられている理由には、その他に軽自動車の技術進歩くらいしかない。最初に挙げた6月6日付けのFinancial Times の記事によれば、「アクセサリや安全機能が普通車並みになったことにより,スタイリッシュな車として選択肢に入ってきた」ことが挙げられている。
 とは言え、小型車の安全機能にはまだ問題もある。最も低価格のモデルでは、オートマが装備されず、マニュアル・シフトしか選択肢がない、というものもあるようだ(Wall Street Journal 5月12日号)。

消費パターンだけではなく、所有パターンも変化

 Wall Street Journal紙の2月28日号によれば、米国では「自動車の耐用年数・耐用距離が伸び,廃車も減少している」のだという。2004年の新車登録台数が1740万台だったにも関わらず,廃車台数は1190万台で,全登録車の5.4%に過ぎなかった。そして、「この割合は年々低下している」という。高速道路交通安全局(NHTSA)によれば,1977年には自動車の半数が10.5年以内に廃車になり,耐用距離は10万7000マイルであった。それが1990年には12.5年,12万7000マイルに伸びていた。最新の2001年のデータによれば,耐用年数は13年15万2000マイルまで向上している。
 これはすなわち、アメリカではなかなか自動車を廃車にせず、中古市場に回したり、新車を購入しても古い自動車をそのまま保有し続けたりする傾向が続いていることを示している。今回のSUV人気凋落の恩恵を最大に受けているのは大衆向けの家族用セダンであると言われているが、その際に、SUVをセダンで乗り換えるのではなく、SUVを保有したままセダンを購入する家庭が増えているという(Wall Street Journal 7月14日号)。
 つまり、今までは古くなったSUVやピックアップ・トラックを新しいSUVやピックアップ・トラックで乗り換えていたが、最近では可処分所得の伸びも手伝って、SUVやピックアップ・トラックを保有したまま、燃費の良いセダンや小型車を購入し、必要なときに応じて都合の良い方を使う、というような消費行動に変化したのではないだろうか。これは嗜好の変化というよりも、所有方法や利用意識の変化と言った方が良いのかもしれない。

小型車人気は続くのか

 こうした所有意識の変化は、ガソリンが安価になっても続くのだろうか。これは実際のところ、現在の時点では判断できない。ただし、小型車の市場が拡大したといっても、まだまだ規模は小さい。Wall Street Journal 5月12日号によれば、サブコンパクト・カー(日本で言う「小型車」)は今年54%増加して34万3000台が販売されると目されているが,サブコンパクト・カーは米国市場の2%を占めているに過ぎない。拡大の余地は充分にある。
 日本でも、農村部では自動車は「一家に一台」ではなく、「一人一台」になって久しい。しかし、米国ではもしかすると、「一家に数台」を家族が用途に応じて使い回す、そんな新しい自動車所有の形が生まれてくる可能性もあるかもしれない。これはもちろん、筆者の推測に過ぎないが。

☆★こちらで紹介した資料は、すべて機械工業図書館で所蔵しております☆★

本レポートで引用した新聞・雑誌のご紹介

『Financial Times』
 Financial Times紙は、1888年創刊のイギリスの日刊経済紙です。あらゆる分野を網羅し、記事の信頼性の高さで有名です。欧州企業の動向をフォローしたい場合、非常に有用です。機械工業図書館ではアジア版を受け入れております。

『Wall Street Journal』
 Wall Street Journal紙は、1889年創刊の米国の日刊経済紙です。こちらも幅広いジャンルをカバーしています。米国の最新の企業動向を押さえるなら欠かせません。機械工業図書館ではEastern Editionを所収しています。

『Business Week』
 Business Week誌は、1929年創刊のビジネス週刊誌です。特に最新の産業動向に詳しく、足の速いIT産業などを企業幹部にもわかりやすく紹介しているのが強みです。機械工業図書館では、Global Editionを1959年から所蔵しています。

その他の自動車関連海外雑誌のご紹介

『Automotive News』
 Automotive News 誌は、1925年発刊の自動車業界専門誌です。記事は、最新技術からマーケティング、新車情報から人事まで多岐に亘ります。北米業界人必見の専門誌です。機械工業図書館は1986年から所蔵しています。

『Automotive Design and Production』
 Automotive Design and Production誌は、2001年にAutomotive Manufacturing & Productionから改名しました。旧誌名時代を含め、1979年から所蔵しています。

『SupplierBusiness.com』
 SupplierBusiness.com誌は、SupplierBusiness.comが発行する海外自動車部品業界に関する極めて詳細なニュースレターです。機械工業図書館では、2004年から新しく所蔵を始めています。