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戦後半世紀を過ぎて新たな世紀を迎えた。戦後の日本経済を振り返ってみると、10年ごとに特徴が浮かび上がってくると思う。まず、40年代は半ばから始まるが、言うまでもなく戦後の荒廃とハイパーインフレの中で[経済復興と統制経済]の時代であった。 |
50年代に入るとやがて復興は完了したが、貿易立国の基本である国際競争力は中進国的な労働集約的商品を除けばきわめて不充分で、国際競争力獲得のために政府はあらゆる政策手段を駆使して産業の強化を支援した[基盤整備]の時代であった。
基盤整備が進んで、60年代は、所得倍増計画に象徴されるような[高度成長]が花開いた時期となる。計画発表に続いた貿易自由化は第二の黒船襲来と大変な危機感に襲われたが、その危機感をバネとして産業は懸命な合理化努力を行ったために、「投資が投資を呼ぶ」といわれた世界的にも稀な高度成長を実現し、末期には一流先進工業国としての技術水準も達成したのである。海外の識者による日本への賞賛が紹介されて日本人の自尊心がくすぐられ、自信過剰ともいえるような論調すら現れるようになった。
70年代は[外的ショック]の時代といえよう。ニクソン・ショックに始まり、二度の石油ショックが世界経済を混乱させ、日本も高度成長を終焉させた。しかし、「危機に弱い日本」という海外の評価を覆して、先進諸国に先駆げてスタグフレーションの脱却に成功した。
80年代はショックを乗り切り、製造業を中心に新たな産業構造の形成期であったということができよう。「重厚長大」から「軽小短薄」ヘと言われたように、省エネルギー・省資源型の技術進歩が進み、それらの製品での圧倒的な国際競争力を誇るに至った時期であった。この時期を21世紀に向けての[第一の構造転換期]と呼んでおこう。しかし、残念なことに後半のバブル経済による花見酒経済が構造改革の徹底を妨げてしまったのであった。
90年代は「失われた10年」と言われるように、不況と混乱に苦しむ10年であった。同時にアメリカの主導力によるグローバル・スタンダードの波が押し寄せてきた時代であった。もちろん、これはアメリカが押しつけてきたというだけでなく、近年の情報通信技術の発展によって不可避となった傾向であり、かつまた「40年体制」とか「55年体制」とか呼ばれた、これまで成功を収めてきた日本型の制度・慣行・行動様式がいまや桎梏と化してきたことからも必然となった問題であり、90年代を政治等も含めて[戦後日本型システムの老朽陳腐化]の時代と位置づけることができよう。とくに、製造業が60年代に白由化されて競争力が強化され、世界最強の製造業が実現されたのに対し、金融証券保険や運輸等の産業では製造業に30年あまりも遅れてようやく自由化の波が押し寄せてきた。これらの産業にとってこの30年あまりの自由化の遅れという時差の克服は決して容易ではない。
21世紀最初の10年は[第二の構造改革期]の時代となろう。いまや世界経済は市場経済一色になったとはいえ、各国の文化的歴史的風土を背景に、アメリカ型、フランス型、ドイツ型等が競い合う時代となろう。戦後、欧米型追跡から日本型礼賛、さらにアメリカ型追従と意識が変化した日本型であるが、新たな日本型システムの模索と構築が新世紀初頭の課題である。
われわれは”誰に呼びかけているのか” 次長兼調査研究部長 柴田 紘一郎
対象
21世紀の初頭に際し、当所は、改めて、"何に焦点を定め、誰に呼びかけているのか"を吟味する時ともされよう。当所の歴史は古く、設立は20世紀中葉の1964年であるが、故、有沢広巳教授の支援による機械産業育成を調査研究の対象とした起点は1955年に遡る。当時、工作機械、家電、自動車産業の育成強化を狙いに、官・産への呼びかけを焦点とした。以来、平成12年である2000年までの累積は約2,200の調査研究テーマを実施してきた。今、機械産業の領域は新素材・エレクトロニクス・バイオテクノロジーの融合技術へと進化し、活用の範囲は地球・社会環境問題への対応力へと広がりを強めている。
つまり、供給の側面と共に、需要・生活者側面の意識への対応が求められている。ここでの呼びかけは官・産のみならず、シンクタンクや大学・高等教育学生への啓蒙を含めたものになろう。当所の一貫した機械産業調査研究のユニークさは唯一、日本の特異として、次世代においても常に、未来方向を探索しつつ、継続して行きたい。
調査テーマの設定と調査スパーン
平成13年度の当研究所・調査研究の狙いは「新しい日本型モデル構築への挑戦」である。今、機械産業の再編と自立的回復の中で、IT革命、中小企業の自立性、起業・創業への課題、環境問題と経営手法の課題など、デマンドサイドに立脚した独創的問題解決型モデルの構築が求められている。その挑戦と実態分析、さらには問題・施策提案を目指している。
テーマの対象は当面、ブローバル・ダイナミック市場を踏まえ、技術開拓・施策、環境問題、中小・中堅・ベンチャー企業、空間的モノづくり、さらに、長期展望などの領域の中から選択して行き、テーマの目標はやや中期的に捉え、3〜5年間の調査研究とする。初年度に問題点の連鎖性を明確にし、次年度以降に個別問題性を追求して、問題の解明を図るが、最も重視点はグローバル経済下でのわが国機械産業の対応力・競争力の解明である。
人材
当所の研究員構成はほぼ10名の小世帯であり、学域も、主として、経済、経営、社会学等文系域である。産業学的体系は未整備の状況にあるが、産業学を指向する人材は学問領域を超えた学際的な開拓が必至である。今後より領域を広げ、学・産との人材開拓サイクル構築が必至とされ、それを目指したい。当所のテーマは初期から、工学部(機械・電子)、理学部、文・法・経・商などとの学際的取り組みの中で成立し、研究員はそのような対応を迫られていた。今、産業界の重視テーマが学界に認知され、学問的理論体系化を経て、普遍化することは日本では少ない。産業界からシンクタンク、学界へ、交流連携を強
めた人材開拓のサイクル強化はこれからの当所の願いでもある。当所からの学界への転出はあっても相互交流の体系化ではないことは常々の悩みでもある。
専門図書館にとってインターネットとは何物か 情報資料部長 坂本 義実
専門図書館は不要になるか
インターネットが図書館の世界を変えつつある。従来は図書館で利用していた情報や資料のかなりの部分が今ではインターネット経由でほぼ瞬時に入手できる。またホームページで資料や統計を公開し、印刷物を廃止するところも増えてきた。こうしたイシターネットの影響を最も受けるのが、専門図書館(当「機械工業図書館」も含めて)であることは否定できない。教養と娯楽が利用者の主たる関心事である公共図書館、あるいは早々にインターネットを情報戦略に取り込み、箱モノは中央センターに集約する方向に進んでいる企業内図書館と異なり、特定のジャンルに特化し、不特定多数の利用者を対象とした専門図書館は、扱う情報のうちインターネットで代替できる部分が最も多い。つまりわざわざ図書館に足を運ぶ必要がそれだけ小さくなってきているのである。実際、専門図書館の中には利用者が目に見えて滅ってきたという声も少なからずあり、さらには専門図書館不要の時代とまで極論する人もいる。本当にそうなのか、少し考えてみたい。
デジタル媒体は印刷媒体を代替できるか
第一に、図書館所蔵資料の中核である印刷媒体やマイクロフィルムは、インターネットや電子媒体では完全には代替できないことを考える必要がある。これには技術的理由と経済的理由があり、双方とも近年は解決の方向に向かつているとはいえ、電子化できない、あるいはされない資料が相当残るだろう(特に過去の資料)。さらに、電子媒体に関してはもうひとつ保存性の問題がある。これは単に物理的耐久性という問題に留まらない。CD−ROMは50年程度は持つといわれているが、50年後、100年後に果たしてソフトとして読めるだろうか。これについてはかなり悲観的である。わずか15年ほど前に商用化された光ディスクが現在はすでに読めなくなっていることを考えると、CD−ROMやDVD−ROMも物理的な耐用年数に至る前に読めなくなってしまう可能性は高い。
重視すべきアーカイブ機能
ましてインターネットでは、基本的に第三者が管理するサイトに情報が蓄積されており、そのほとんどは長期的な保存を前提にしていない。その結果、容量の眼界のため一定期間後には消去されたり、サイトそのものが消滅することも少なくない。つまり電子媒体やインターネットは、図書館の重要な機能のひとつであるアーカイブ(文書庫)としての機能は果たせないのである。「機械工業図書館」のような比較的新しい情報を中心にしている専門図書館ですら、30年前、40年前の資料を求める利用者が少なくないことを考えれば、この点は重要である。
データ蓄積装置の容量が今後も拡大することを前提にすれば、ネット上の情報を長期間蓄積することは技術的には可能となろうが、サイト作成側にそうした意識が定着するにはかなりの時間がかかる。まして制度的にこれを強制することは、インターネットの自由な性格を損なうおそれがあり、慎重に対処する必要があろう。もっとも、CD−ROM等の電子媒体については最近ようやく国会図書館に納本制度が整い、制度的にデータやソフトの上級化を行う道が開かれたことは歓迎される。
インターネット時代の情報水先案内人
第二に、逆説的になるが、インターネットの普及・拡大のメリットを最も享受しているのは専門図書館なのである。インターネットは、CD−ROMなど電子媒体と併せて、資料購入コストの節減、省スペース、省力化、調査やレファレンスの効率化など計り知れないメリットを専門図書館にもたらした。現在多くの専門図書館が取り組んでいるのは、これらのメリットを従来からの所蔵資料と組み合わせて、いかに相乗効果を発揮するかという課題である。つまり情報の専門家としてのノウハウを持つ専門図書館が、いわばインターネット時代の水先案内人としての役割を担えるかどうかが問われているのである。(時間的、空間的限界を超える情報発信者に)
第三に、インターネットは、箱モノとしての図書館がその空間的、時間的制約を克服し、真に情報の発信者となる手段を提供してくれた。東京に所在し、昼間しか開館していない「機械工業図書館」は、例えば沖縄の人々、まして海外の人々にとっては存在しないも同然である。しかしホームページの充実により、利用者の外延をほとんど無限に広げることが可能となった。原資料については遠隔貸し出しなどの提供手段を考慮する必要があるが、この利用者の拡大は専門図書館にとっては極めて魅力的である。
上記を考え合わせると、インターネットは専門図書館と対立するものではなく、むしろ新旧の機能を融合させて専門図書館に新たな地平線を開く強力なツールだと見るべきだろう。箱モノとしての機能は次第に縮小するにせよ、それを補ってあまりある付加価値を持つことが重要であり、「機械工業図書館」もその方向を目指している。
なお私見であるが、野口悠紀雄氏がかつて「情報の経済理論」で述べた「趣味的情報」(使用後も価値の滅じない種類の情報)の要素は、専門図書館にもあってよいと考えている。世代間のデジタル・デバイドヘの対応やユーザー・フレンドリーな情報提供も含めて、箱モノとしての専門図書館はすぐれて人間的であるべきと考えるからである。
成果の普及活動の現状と今後の方向 企画管理室長 須藤 英隆
経済研究所は、1964年に設立されて以来、30有余年が経過致しました。この間わが国経済の基盤をなす機械情報産業の産業構造・産業組織・企業経営などに関して、時代の要請に応じたテーマを設定し、その実態分析や問題を把握することに努めて参りました。これを調査研究プロジェクト数でみますと、2200タイトルを超え、最近では年間約40数テーマに取り組んでおります。
これらのテーマは「調査研究報吉書(各テーマ、年1回発行)」、「経済研究所報:機械経済研究(年1回発行)」、「英文機関誌:Engineering
Industries of Japan(年1回発行)」などとして取りまとめ、公的機関・当研究所特別会員などを中心に配布して参りました。また、こうした成果の普及活動に加えて、学会報吉や新聞などの発表、さらに東京報告会(年1回)・地方講演会(年2〜3カ所)、当経済研究所特別会員を対象とした月例のSTEP研究会などを開催し、広く調査研究の成果の普及に努めて参りました。長年に及ぶこうした成果の普及活動によって、機械関係業界をはじめとします関係先の発展に貢献してきたと思っております。
しかし、最近急速に展開するIT革命の下で、企業の意志決定のスピードが競争の優劣を左右する状況になつており、当研究所の成果の普及事業も、こうした環境変化に対応できる体制作りが急務になっております。そこでその第一段階として、調査研究の成果を従来の印刷物からCD−ROMへの転換を図っております。CD−ROMは、単に報告書名、発行年度の検索だけでなく、報告書の目次検索も行えるようになり、利用者の効率化が図られております。現在のところ、このCD−ROMは、当研究所の機械工業図書館で閲覧できるようになっておりますが、将来はこのCD−ROMを利用者に、実費頒布することも計画しております。さらに、当研究所のホームページ(http://www.kskbldgunet.ocn.ne.jp/)においても、調査研究報告書などのタイトルのみならず、全文を利用者に活用していただけるようにすることも視野に入れております。
こうした成果の普及活動と並行して、当研究所では調査研究成果自体の質の向上を図るため、外部の学識経験者で構成します研究調査評価委員会を設けて、成果の評価と問題点の把握にも努めております。
開催状況
1月のSTEP研究会は、特別会員及び関係団体・企業の方々等との新年会をという意味も含めて、定例会とは少し違った形で行っています。
今回は、室田泰弘氏((有)湘南エコノメトリックス代表取締役)を迎えて、1月31日(水)に「IT革命と企業戦略」と題して開催します。
<その他の催物>
11月16日 | 機械情報産業講演会(大牟田布) |
11月28日 | 第308回STEP研究会「国際石油情勢と原油価格の展望」 |
12月20日 | 第309回STEP研究会「わが国半導体・電子機器事業は21世紀に生き残れるか −情報家電型ビジネスモデルを求めて」 |
技術研究所からのお知らせ
"第36回(平成13年度)機械振興協会賞"
受賞候補者の募集について
応募方法; | 機械工業関係団体または、 機械関係学会よりの推薦 |
推薦期間; | 平成13年2月21日〜4月2日(予定) |
受賞者の発表; | 平成13年9月(予定) |
詳しくは、下記までお問い合わせ下さい。 (財)機械振興協会 技術研究所 賞事務局 TEL0424−75−1157・FAX0424−76−4870 |